北海道のひと物語北海道ひと物語-陸別町 本田学さん

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▼祭りを育て、ひとを育てる若きリーダー

  本田 学さん しばれフェスティバル実行委員長 [陸別町]



テントと釣具の本田商店。

アウトドアのお店なんだな、そう思って店内に入ると、半分正解、半分不正解だった。
お店に並んでいたのは、釣具それも大き目のルアーがメイン。だが、テントが見当たらない。

「海釣り用が多いんですよ。陸別からだと日本海も太平洋も同じくらいの時間で行けるし」

声をかけてくれたのは店の主人、本田学さん。

「でも普段は奥で作業をしてるんですよ・・・」

靴を脱いで奥の部屋へお邪魔させていただく。
驚いたことにその部屋には、あらゆる形の型紙がびっしり吊り下げられていて壁が見えない。

本田テント店では、お客さんの注文に応じて、リュックサックやチェーンソー用の防具、革製アックスケース、さらには熊鈴なども製作、販売している。
注文に応じて型紙をつくり、型紙に合わせ生地を切断し、そして縫製して、と本田さんがすべてを一人でこなす。

「もちろんイベント用のテントなんかもつくってます。もともと親の代から馬具をつくっていたからその技術を生かしているんです」

なるほど、よく見ると見慣れない道具もずいぶんある。

本田さんが20才のとき父親が脳内出血で倒れ、陸別にUターンし家業を継いだ。

「同じような業種の店は道内にいくつかあるんだけど、細かいオーダーメイドに対応している店はあんまりない。うちは大きなものもつくるけど、うちは裾上げ、ファスナー付けとかなんでもやってます」

こんな風に、と本田さんが腰を下ろすや、目の前のミシンが呻りをあげ、あっという間に生地がズボンとしてかたちを現し、命を吹き込まれていく。

「1時間で10枚くらい、年間だと2千枚くらいつくっているかな」

ただ一人で製作しているため、まだ対応し切れていない注文票が壁に幾重にも留められている。


そんな多忙な本田さん。
実はこの町内はもちろん、十勝地方でも知らぬ人はいない有名人なのだ。
陸別の町の顔ともいえる冬のイベント「しばれフェスティバル」の実行委員長を2003年から務めている。

本田商店
▲釣具をはじめレジャー用品などもそろえてある本田商店

仕事中の本田さん
▲瞬く間に縫製していく本田さん

地元商工会青年部が中心となり1982年にスタートした冬を楽しむイベント「しばれフェスティバル」。
その実行委員長は代々、商工会青年部長が務めている。
青年部長のポストは青年部を引退する40才直前の一期二年というのが慣例だった。
ところが、会員それぞれの事情もあって本田さんは31才という異例の若さで就任、4ヶ月後に迫った翌年2月のしばれフェスティバルの運営を任される。

「実行委員長を引き受けた年、本当にどうしようって思った。けど無事終わってみてさ。その時、一生懸命応援してくれた田中芳美産業振興課長さん(現助役)と抱き合って涙流して喜んだんだ」

商工会青年部やOB、役場職員などの協力もあって、第22回しばれフェスティバルは盛会裡に幕を下ろす。以降、今年の25回まで4年間、運営委員長としてイベントを盛り上げてきた。

厳しい行財政の折り、現在の予算は最盛期の半分以下であるが、スタッフの数は年々に増えているという。
スタッフジャンパーである黄色いポンチョを羽織るスタッフが約70人、当日手伝ってくれる役場職員などを加えると100人を超える。
ところがそのうち商工会青年部はわずか14人に過ぎない。

「昔、自分が設営部長をしていたときにやっぱり作業が大変だから『手伝ってほしい』って声かけたわけ。でもさ、周りの人からすると、その輪に入る最初の一歩を踏み出すのってすごく勇気がいるんだね。だからその垣根を越えやすいように、1人ひとり声かけて連れてきて、作業が終わった後は必ず一緒に飲むんだよね」

業種や立場にこだわらず、一人ひとりと対面し、仲間の輪を少しずつそして、確実に広げている本田さん。

「飲んだ後は何も言わなくても、飲まない人が自主的にワゴンでみんなを送ってあげてる。絶対に酒飲んで帰らせるようなことはしない。やっぱり警察もしばれフェスのため一生懸命やってるのを見てるから、なにかと多めに見てくれる節もある。でもこのイベントに限らず、それに甘えちゃいけないんだよね。本当に何かあったとき、このイベント自体ができなくなることだってあるわけだから」

歴史があり、予算規模も大きく、このときばかりは町の人口が2倍に膨らむ陸別最大の冬のイベント。
失敗は許されない、本田さんの真っ直ぐな視線に強い意志を感じる。

「顔出して単なる挨拶でおしまいじゃなくてさ、とにかくやってみれ」

委員長になった当時、距離を感じていた町の幹部に対して本田さんはそう言った。

深夜にまで及ぶもっとも過酷な作業、氷のかまくらづくりに町長を参加させようというのだ。イベントの成否を決める要素、それは本当に自分たちお祭りだと感じられるかどうか。町長であれ、議長であれ、「町を盛り上げたい」という同じ目標に向かう仲間なのだ。

「そしたら本当に来てくれた。ところが、普通に革靴に背広だったから、水がはねてそれが凍り付いて靴がおかしくなっちゃってさ。次の年からさすがに防寒服着てきたね。町の予算が少なくなるんならそれでもいい。とにかく話をしようって」

距離を感じるときこそ話をしよう。そして一人ひとり、個人個人が本当に結びついていく。今では、町長も深夜3時4時まで車座に入って語り合う仲間の一人だ。

「我々も一人ずつでも連れてくる。そしたら帰らせないんだよね。(笑)11時過ぎからでも座らして一緒に飲む。そりゃこっちもエネルギー使うよ。過剰接待かもしれない。でもまた来て欲しいしさ。そしたら次の晩、ビール持ってくるんだわ。そういう人たちのかたまり。ここにいるのは。しばれフェスティバルの時に限らず、そういう空間を普段からもてたらそれは楽しいよね」

厳しい寒さを乗り越えられるのは、それ以上の熱をもっているからなのだろう。

本田さんは現在、その力量と人柄を買われ、十勝管内商工会青年部連合会副会長、北海道商工会青年部連合会理事を務めている。全国、道内各地を飛び回っている時間が多いが、一方で陸別町の未来についても冷静にみている。

「イベントをやることが地域の活性化になるかというと必ずしもそうじゃないと思う。確かに飲食店なんかはそれなりに収入を得られるだろうけど、やっぱり自分の仕事をキチンとすることが結果として地域のためになる。誰かの、ひとつの仕事がなくなるだけでも地域にとっては大きな損失になる。10年後もまちはあるし、我々も、次の世代も食べていかなくちゃならない」

「自分はどうしても、いろんな会議に声がかかるため家を空けることが多い。それは自分が引き受けたことだから責任をもってやる。でももしも、そのために土日に店を閉めることなれば、その分作業を前倒しして、たとえ明け方までかかろうと作り上げる。それが自分の基盤だから」

一人ひとりがしっかり自立していること。
自らの仕事でしっかり飯を食っていくことが、なによりも地域のためになる。

今日も、本田さんは型紙と格闘しながらミシンを動かしている。

(2006年6月記)


陸別町探検地図


型紙や生地
▲壁に連なる型紙や生地。他の部屋にまで溢れている

縫製道具
▲もともと馬具を扱っていたため、各種道具類も充実しており、大概の修理ならできてしまう

しばれフェスティバル
▲スタートから四半世紀を迎えた「しばれフェスティバル」。夜には花火が打ち上げられ、祭りは最高潮を迎える
■テントと釣具 本田商店
住所 北海道足寄郡陸別町栄町
電話 (0156)-27-2224
FAX (0156)-27-2224
営業時間 9:00~18:00
その他 修理・オーダーメイドもOK。







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