  |
top ≫ 根室エリア ≫ 羅臼町

|
▼自然の補修に取り組む大地の果てのNPO
湊 謙一さん
NPO法人しれとこラ・ウシ理事長/羅臼の宿まるみ代表取締役 [羅臼町]
|
「20才のとき、成人式を横浜でやった。当時、俺がいたのが沖仲仕(おきなかし)っていわゆる人足の世界だな。久里浜から地中海に向けてマグロ船が一年半航海で出ていた。俺は漁師の経験はなかったけど、この船なら乗って後悔はないと思ってさぁ」
現在、羅臼町で民宿まるみを営むする湊謙一さん。
その人生は人柄同様、豪快だ。
湊さんは昭和24年生まれ。中学卒業後、釧路で理容師の免許を取得し、そのまま一路、関東を目指す。
湊さんの日本を飛び出したいという思いは強かったが、マグロ船への乗船はついに叶わず。
そこで次にカナダ移民として渡航するべく準備を開始する。
ところが、カナダ大使館で書類を整えていたまさにそのとき、郷里羅臼から身内の訃報が届く。急遽羅臼に呼び戻された湊さん。しかし、2年ほどののち再び関東に引き返し沖仲仕の世界に戻っていく。
「沖仲仕の仕事は銭にはなる。だけど、本当に厳しいもんだから目の前で人も死んでった…新聞にも載らなかったなぁ。それから6年。あっちで暮らすには嘘ばっかつかなきゃならない。結局それがいやでさ。27才のとき、羅臼に戻って小さい民宿をはじめたんだ…」
当時羅臼に2、3件だった宿も、今では20軒を超える。
小さな民宿だった「まるみ」は、現在、本館7部屋、新館25部屋の計32部屋。この間、湊さんは温泉を掘りあて、またホエールウオッチング用の観光船も用意した。
「知床というとウトロだった。羅臼に来るお客さんなんていなかったな。山からお客さんを下ろさないといけなかった・・・だから観光船も持ったし、温泉もボーリングしたんだ」
お客さんをもてなすための最大限の努力。
それは、まるみ自慢の豪快な漁師料理を見てもよくわかる。
供される魚介類は羅臼の海から揚げられたままのまさに海の宝石。ホッケ、メンメ(キンキ)、ボタンエビ、タラバガニ、ウニ・・・。さらに美しく盛り付けられたイクラ、明太子、イカの沖漬け、鮭の冷燻製、そして味噌までもすべてが自家製で、湊さん自らが味を調えている。
そんな湊さんは、知床岬に流れ着く漂着ゴミの回収を13年前からボランティアで行っている。
当初は個人ではじめた活動だったが、その後、湊さんの呼びかけに羅臼町も応じ、1998年から町主催の事業として「知床岬クリーンアップボランティアツアー」が行われるようになる。
さらに2005年からは、前年に設立されたNPO法人しれとこラ・ウシと町の共催事業として地元のみならず全国からボランティアを募り、根室支庁、羅臼海上保安署等の後援、漁協の協力を得て実施され、昨年は延べ8回、146人が参加、2,252kgのゴミが回収された。
湊さんは現在、このNPO法人しれとこラ・ウシの理事長として、知床の海を取り戻す活動に積極的に取り組んでいる。
「世界遺産になったから素晴らしいとか、いいという話じゃないんだよね。むしろ世界遺産になったからこそ、もう少しきちんとしなくちゃいけない、そう思ってやってるんだ」
「日本最後の秘境」「原生の自然」・・・そう謳われる知床だが、岬まで海岸線には30軒ほどの番屋が並び、夏の間はコンブ漁の漁師が番屋で暮らす。そもそも人跡未踏というような場所ではなく、岬の先端部、その先の海までもが地元の人々にとっては生活圏なのだ。
その海岸線は、場所によっては海流の影響で絡まり合った魚網や、プラスチック片が無残に打ち上がっている。日本海を北上する対馬暖流の支流ががぐるり宗谷岬を回り、ここ知床まで数々のゴミを運んでくるのだ。今年に入り、5千羽を超える海鳥が油に汚染され漂着したことも記憶に新しい。
羅臼でゴミを拾い続ける湊さん。
「そう、関東にいた頃はいろいろあったからさ、羅臼に帰ってきてからは嘘とか騙しとかそういうのは一切しないんだ。どんな偉い人にも、逆に好き勝手なことを言っている。ゴミ拾いにしたって、こっちはなんにも悪いことしてないんだから。それが強みだと思ってるけど、ただ…やっぱり人には理解されないところもあるなぁ」
歯に衣着せぬ発言と豪快な人柄、また旅館業、観光業を生業にしているという立場から、町の中でも時に意見の対立を生むという。
「やっぱり難しいよ。人の意見がみんな正しいとは限らない。俺の言うことも正しいとは限らない。ただ、ここに住んでるんだから何か誇らしいものを、と思うが例えば漁師のなかにはそれを否定する人もいる。俺がこうやって商売やらしてもらえるのは、羅臼が漁業の町だから。漁業のおかげ、漁師のおかげでこの町が成り立っているってのはよくわかっている。これだけの魚介類が獲れるから、お客さんに来てもらえるし、喜んでもらえる。ただ、海の環境をよくしていけば、もっと魚も獲れて町もよくなるわけだ」
|
|
|
| ▲豪快な料理で有名な羅臼の宿まるみ。テラスからは国後島が望める |
|
|
| ▲美しく盛り付けされた料理の数々。奥で包丁を握るのは宿のご主人、湊謙一さん。地の物に対するこだわりが感じられる |
|
|
| ▲知床半島の先端部でのクリーンアップ作戦。今回の回収場所は港から歩いて1時間ほどの場所。持てるだけのゴミを担ぎ、船まで引き返す |
|
また、時にボランティアゴミ拾いという名目で単に自分の宿のPRをしているんじゃないか−そう揶揄されることもあるという。
海岸清掃をするためには羅臼の最東集落、相泊の漁港から船に乗って1時間。
岬の先端、斜里町側にある避難港の文吉湾で、艀に乗り換えアブラコ湾まで戻る。ここから、海岸線沿いに3kmほど羅臼町側へ戻り、最もゴミの多く漂着する浜にようやく到着する。
そしてめいめいが回収したゴミ袋を抱えて、再びもと来たルートを戻るのだ。
|
荒れる海原、道なき海岸、ヒグマの棲む森。
船をつけられる場所が限られるため、現場では自分の足を頼りにするしかない。
万が一、ここで事故が起こったら−、それは場合によって町やNPO、あるいは音頭をとる湊さん自身の立場や築いてきた信頼を一瞬にして失墜させる可能性があるのだ。
だから湊さんは船に乗るときから、神経の糸を研ぎ澄まし、参加者が安全に行動できるよう気を配る。海岸線を歩くときも、時に参加者の先頭に立ち、また最後尾を確認し、人数を数えて一人ひとりに目を配り、声をかける。
それだけの時間と神経とを使い、体力と油とを消耗してはたして儲かる商売になるだろうか。
そもそもボランティアというにはあまりに危険で、リスクが大きい。
「だけど俺はあせっていない。あと10年は死なないから(笑)。NPO法人しれとこラ・ウシは来年3年目だから、まずはそれをしっかりさせていきたいな」
13年前に湊さんが投げた一つの小石。
それがいま細波となって、広がりはじめている。
NPOには同じく羅臼に思いを寄せる漁師がメンバーとして加わり、昨年からは漁協も独自に清掃活動をはじめた。
今年7月にはこの羅臼の地で、海岸漂着ゴミ問題を考える全国会議「海ゴミサミットin知床らうす会議」(主催:JEAN/クリーンアップ全国事務局、NPO法人しれとこラ・ウシ、羅臼町)が開催され、中央省庁も議論に加わった。
知床の海と森は、いまや世界の衆目を集める人と自然の共生の場の象徴でもある。
「俺たちがしているのは自然の保全というより補修だぁ」
美しい自然を積極的に取り戻すために、今、我々に何が出来るか。
湊さんはこのシリエトク−大地の果て−から、行動することの尊さを訴え続けている。
(2006年7月記)
|
|
|
| ▲ゴミの重量を量る湊さん。燃えるゴミ、プラスチックゴミ、魚網類などあらかじめ分別の上、ゴミを拾う。最後に一つずつゴミ袋を計量し、記録する |
|
|
| ▲全国各地で住民の頭を悩ませている海岸漂着ゴミ。「海ゴミサミット」は研究者や自治体関係者、市民団体などが同じテーブルのもと、解決策を模索しようと2003年から場所を移しながら、毎年開催されている |
|
|
| ▲岬に咲いていたエゾフウロ。何もしないことで、美しい自然が保たれるというのは、実は幻なのだ |
|
■羅臼の宿 まるみ
| 住所 |
北海道目梨郡羅臼町八木浜町24 |
| 電話 |
(0153)-88-1313
|
| FAX |
(0153)-88-2128
|
| 公式サイト |
http://shiretoko-rausu.com/
|
| 宿泊料金 |
▼スタンダードコース(1泊2食付)
2名利用9300円、3名利用8300円
(新館トイレ付き和室利用の場合)
※他にも各種料金設定あり
|
▼羅臼の宿まるみのサイトはコチラ

▼NPO法人しれとこラ・ウシの公式サイトはコチラ

▼羅臼町役場公式サイトはコチラ

|
|

▼この知床に世界中のシーカヤッカーが集まる「海の学校」をつくりたい [羅臼町]

▼大地に刻まれた歴史と文化のタイムカプセル、羅臼町郷土資料室 [羅臼町]
|